2020年1月。私は一念発起して、証券口座を開設することにした。
きっかけは山崎元さんの著書だった。「長期・分散・低コスト」。
難しいことは何も書いていない。
それなのに、読み終えた瞬間、背中を押された気がした。
よし、やろう。50歳にして、初めて投資の世界に踏み込むことにした。
50歳からの証券口座開設は、想像以上に大変だった
今の時代、指先ひとつでスマートに終わるものだと思っていた。
ところが、いざパソコンの前に座ってみると、これが案外一筋縄ではいかない。
画面をあちこちクリックしては足止めを食らい、結局デジタルの迷宮に音を上げて、
アナログ極まりない「郵送」という手段に頼ることになった。
デジタルが得意な世代なら一瞬かもしれないけれど、私たち世代には、この最初の壁が高すぎる。
もしこれから口座を作る同世代の方がいるなら、「最初から郵送で」とアドバイスしたい。
それくらい、スマートとは程遠い格闘だった。
さらに厄介なのが「ニーサ」という魔法の言葉。
審査やら何やらで時間がかかると言われ、私の「早く始めたい!」という熱量はもう限界。
結局、NISA口座が開くのを待てずに、特定口座で記念すべき一歩を踏み出すことにしたのである。
二つの証券会社に申し込みの封筒を出し、一刻も早く書類が届いた方に、
まずは三十万円を放り込んだ。
完璧主義を捨てて、まずは一歩。
それが私らしい始まりだった。
初めての一歩は、完璧じゃなくていい
三十万円。
画面上の数字になった途端、心臓の鼓動が耳元まで聞こえてくるような気がした。
ただ入金しただけでこの騒ぎ。
これから株を買うなんて、正気の沙汰かしら、とさえ思う。
今思えば、あの時の三十万円は、ただの投資資金ではなく
「覚悟」だったのだと思う。
完璧なタイミングなんて、一生来ない。だから私は、
不完全なまま一歩を踏み出した。
コロナショック——資産が溶けていく恐怖
ところが、運命は残酷なタイミングで牙を向いた。
新型コロナウイルスの襲来である。
世界中が凍りつき、株価は目も当てられないほどの急降下。
画面を見るたびに、積み立てたはずの資産がみるみる目減りしていく。
文字通り、口から心臓が飛び出しそうな日々。
「長期」で持つのが大事だと頭ではわかっていても、
目の前の数字が溶けていく恐怖には抗えない。
今思えば絶好の「買い場」だったけれど、
当時の私はただただ震えることしかできなかった。
怖くて、怖くて……。
あろうことか、月々の積立額を、千円単位にまで、そっと減らしてしまった。
でも、今になって思えば、積立額を減らした自分を、私は褒めてやりたい。
投資のプロは「そのまま積立を続けろ」と言うかもしれないけれど、当時の私のメンタルでは、
それが精一杯の「やめない」ための工夫だった。
積立額をゼロにしなかったことが、未来につながったのだから。
孤独な嵐の中で、それでも「やめなかった」
周りには投資の話ができる友人なんて一人もいない。
夫に相談したところで「それ見たことか」と言われるのがオチ。(と言うか夫にはほぼ内緒)
私はたった一人で、真っ暗な嵐の中に立っているような孤独と恐怖を抱え込んでいた。
けれど、そんな弱気な自分を、今の私は心から褒めてやりたいと思う。
だって、私は「やめなかった」のだから。
全額引き出して逃げ出すこともせず、細い糸のような千円を、必死につなぎ止めていた。
山崎元さんの教えを胸に、自分の直感だけを信じて、嵐が過ぎるのをじっと待ったあの時間は、
決して無駄ではなかった。
そうして私は、投資の本当の洗礼を浴び、
少しずつ「本当の投資家」への階段を上り始めたのである。
※本記事は筆者個人の投資経験・考え方をもとに書いたものです。特定の銘柄や投資手法を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴います。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


