昔は「大きな保障=安心」だった
30年以上前のことだ。
会社には昼休みになると、保険の担当者が出入りしていた。
お菓子を配りながら世間話をする。そんな光景が当たり前だった時代である。
若かった私は、夫と一緒にD生命の「夫婦型」の保険に加入した。
死亡保障は、たしか8,800万円。
そのときは、これだけあれば万が一のことがあっても安心だと本気で思っていた。
今振り返ると、私は何からそんなに守られたかったのだろう。
家計を圧迫していた保険料
その後、子どもが生まれ、学資保険を組み、マンションを買って住宅ローンが始まった。
乳児の保育料も高く、家計は思った以上に苦しくなっていった。
そこで家計簿をつけてみると、保険料が月4万円近くまでふくらんでいた。
しかも、この「夫婦型」は、夫に何かあった場合、私の保障まで一緒に消える仕組みだった。
つまり、どちらか一方に万が一のことがあると、もう一度入り直す必要があったのだ。
そこで保険を見直した。
夫にはある程度の死亡保障と入院保障、私は最低限の入院保障だけに整理した。
その結果、2人合わせて月15,000円まで下がった。
家計の負担はかなり軽くなった。
保険は安心のために入るものだが、払い過ぎれば家計を圧迫する。
そのことを、このとき初めて実感した。
実際に使ってわかったこと
それから長いこと、私たちは保険を使うことなく過ごした。
初めて大きな医療費が発生したのは、私が50代になってからだ。
網膜剥離で緊急入院・手術となり、5日間入院した。
私は迷わず個室を選んだ。
病気というだけで気持ちが落ちるのに、
大部屋で気を遣いながら過ごすのはつらいと思ったからだ。
請求額は約20万円。
保険会社からは入院給付金が出たが、手術は対象外だったため、給付は4万円足らずだった。
一方で、公的制度からは約12万円が戻った。
この経験で分かったのは、民間保険だけで備えるのではなく、
公的制度を知っておくことの大切さだった。
夫の入院で見えた現実
さらに4年後、今度は夫がS字結腸の手術で緊急入院することになった。
夫も個室を選び、10日ほどの入院で支払いは200,530円。
この時は保険会社から152,500円が支払われ、公的制度からも44,000円が戻った。
一見すると保険がよく役立ったように見える。
ただ、長年払い続けてきた保険料を考えると、損得は単純には決められない。
個室代のような追加費用を除けば、かなりの部分が国の制度で支えられていた。
日本の公的保険は意外と強い
若い頃の私は、毎月の健康保険料を「高い」としか思っていなかった。
けれど実際には、日本の公的医療保険はかなり手厚い。
たとえば高額療養費制度があり、ひと月の自己負担には上限がある。
そのため、高額な治療を受けても、一定以上を自分で負担し続ける必要はない。
また、万一のときには遺族年金などの制度もある。
昔の私にアドバイスできるなら、保険商品を選ぶ前に、
まずこうした制度の全体像を知るように言いたい。
民間保険は大切だが、すべてを民間でまかなう必要はない。
公的保険を理解したうえで、自分に必要な分だけを補う。
その考え方の方が、家計にはずっとやさしい。
保険と健康は別の話
保険に入れば、病気が早く治るわけでも、症状が軽くなるわけでもない。
ましてや、保険に入っていれば病気にならないわけでもない。
本当に大切なのは、
まず病気にならないこと、
事故に遭わないことだと思っている。
そのうえで、万一のときに備えて保険を考える。
順番としてはこちらの方が自然だ。
保険は治療そのものを助けるものではない。
気持ちの支えにはなるが、体を守るのは日頃の暮らし方や注意の積み重ねだ。
それでもやめられない理由
保険を見直してから、もう何年も経つ。
今の保険料は2人合わせて月10,000円ほどだ。
正直、このお金を投資に回した方が合理的だとは分かっている。
それでも、いざ解約となると迷いが残る。
年齢を重ねるほど、これから病院にかかる可能性は高くなる。
「やめた直後に何かあったらどうしよう」と考えると、なかなか踏み切れない。
保険は数字だけでは割り切れない。
安心を買うものでもあるからだ。
見直しで大事にしたいこと
この経験から学んだことは、次の3つだ。
・民間保険に入る前に、公的保険の内容を知ること
・家族構成や年齢に合った保障だけを持つこと
・安心のために払っている金額が家計に見合っているか定期的に確認すること
保険は万一に備えるためのものだ。
だからこそ、感情だけでも、数字だけでもなく、
自分の暮らしに合う形で考える必要がある。
若い頃の私は、8,800万円という数字に安心した。
いまは、公的制度と必要最低限の備えがあれば十分だと感じている。
この見方に変わるまで、長い年月がかかった。
保険に救われたこともあれば、公的制度に救われたこともあった。
その両方を知った今、ようやく自分なりの答えが見えてきた気がする。
保険は、入るか入らないかより、何に備えるために持つのかを考えることが大事なのだと思う
※高額療養費制度の上限額は所得区分・年齢によって細かく異なるので、正確な金額はご自身の状況に合わせて全国健康保険協会や加入している健康保険組合の情報で確認してください。この記事は私個人の体験談であり、特定の保険商品や制度利用を勧めるものではありません。


